久しぶりのブログ更新です💦
福岡県糸島市で気軽に経営相談ができる税理士、小山知則です。
毎週金曜日にブログで私の専門としている経営と相続をメインに役立つ情報を綴っていきます。お楽しみに!
デフレの原因
以前から気になっていた本で、2010年発刊と古い本なのですが読んでみました。
著者は藻谷浩介氏です。日本政策投資銀行におられた方です。
この本では、「デフレ」は生産年齢人口の減少により引き起こされているとしています。
つまり日本全体の加齢により、あまり消費しない高齢者の数が増え、
よく消費する若い世代の数が減っていることにより、
構造的に引き起こされているとしています。
たとえば、国内小売販売額はバブル頂点の1990年以降ではなく、
1996年以降から減少しています。
これは日本の生産年齢人口が減少に転じた時期と一致しております。
車が売れないのも、肉やお酒が売れないのも、繁華街が賑わうことがないのも、
モノやサービスを昔ほど消費しない高齢者の数が増えて、
モノやサービスを消費したい(必要とする)若者の数が減っているのだから
自然の帰結だとしています。
本書では、それらの事象を裏付ける統計・データを用いて
非常にわかりやすくよく検証されていました。
生前贈与促進で高齢富裕層から若い世代への所得移転を実現
藻谷氏の提言の一番目に「生前贈与促進で高齢富裕層から若い世代への所得移転を実現」
とあります。
データ
そこで、私は世代別(2人以上の世帯が対象)の家計状況をフローと
ストックの角度から検証を行ってみました。
世代別家計収支(フロー)
①勤労者世帯(平均年齢48.9歳)
可処分所得400,194円-消費支出311,747円=+86,447円※
②高齢勤労世帯(平均年齢68.4歳)
可処分所得350,926円-消費支出284,012円=+66,914円
③高齢無職世帯(平均年齢73.8歳)
可処分所得209,211円-消費支出243,310円=-34,099円
※勤労世帯は、一見すると収支が8万円以上プラスに見えますが、
ここでの支出には住宅ローンの返済などが入っていないため、
実際にはプラスはないと思われます。
詳細はe-Stat,平成26年全国消費実態調査,第23表 住居の所有関係別1世帯当たり1か月間の収入と支出
をご参照ください。Excel表がダウンロードできます。
(出典:総務省統計局「2014年全国消費実態調査」)
世代別貯蓄の状況(ストック)
40歳未満・・・574万円
40~49歳・・・1,065万円
50~59歳・・・1,802万円
60~69歳・・・2,312万円
70歳以上・・・2,446万円
世代別貯蓄・負債の状況(純資産※)
40歳未満・・・△524万円
40~49歳・・・18万円
50~59歳・・・1,211万円
60~69歳・・・2,092万円
70歳以上・・・2,376万円
※貯蓄から住宅ローンなどの債務を引いたもの
となっています。(出典:総務省統計局「2016年世帯属性別にみた貯蓄・負債の状況」)
検証
ここで高齢無職世帯においてみてみましょう。
毎月3.4万円の赤字であるため、貯蓄を取り崩しながら生活していることが分かります。
自己負担は少なくても、勤労世帯に比べて医療費関連支出の割合は増えています。
この世帯の平均年齢は73.8歳です。
では平均寿命の84歳(男女平均)位まで生きるとしましょう。
残り約10年間、毎月3.4万円の赤字でも残りの生涯で408万円の支出です。
2,376万円の純資産に対して408万円の生涯支出ですので・・・
1,968万円のお金を使い残してしまいます。
しかも相続人の平均年齢はおそらく60歳位が多いのではないでしょうか。
したがって、もともと、貯蓄の大きいところにさらにお金が流れるだけ、
より多くのお金が必要な若い世代や子育て世代へ全く資金が還流しません。
さらに奇妙な話があります。
財務省において高齢者の貯蓄の目的を調査しています。
貯蓄の目的として多いのは、「病気・介護の備え」が62.3%と圧倒的でして
次いで「生活の維持」が20%でした。
そして何と計算上は1,968万円の使い残しが発生するであろうにもかかわらず、
子供に残すと回答した割合はわずかに2.7%です。
なぜこのような矛盾が生じてしまうのでしょうか?
虎の子の貯蓄は絶対防衛ということでしょうか?
確かに高齢者にとっては今後、年齢とともに病気や介護の必要が生じることは当然に予想されます。
しかしその中の多くの人たちは医療介護保険や公的な医療保障によってリスクヘッジされている
のではないでしょうか。
将来の病期や介護に備えて余分に1,968万円も用意しなければならない世帯は
かなり少ないのではないかと思うのです。
勿論、夫婦ともに要介護状態が相当期間長期にわたる場合などは
この位の蓄えでも不足するかもしれません。
しかしその可能性は小さいと思われるし、
もし不安であれば民間の介護保険などに加入すれば良いでしょう。
※なお、高齢勤労世帯においては、将来高齢無職世帯となるまでにその貯蓄額は、
現在の高齢無職世帯の平均値より多くなるのでなおさら多額の貯蓄は不要です。
やはり、藻谷氏の言うように、高齢者にとって貯蓄は
医療福祉サービスの先買い(コールオプション)であって、
流動せずに死蔵され続ける可能性は高いのではないかと思われます。
よくある反論
①高齢者は消費が少ないは間違いだ。一人当たりの消費額にすれば60代が一番多いではないか。
確かにそうかもしれない。一因には、最近60代や70代でも働く方が増えており、
その分その世代の消費が増える要因にもなっているということこともあるでしょう。
しかしこれは、完全にストックを度外視した考えではないかと思います。
現状余分に消費する余力がほとんどない、或いは余力が全くないような若い世代に、
60代以上の世代と同じように、生涯で使い残すくらいのストックを与えてしまえば、
普通に考えて今の高齢者よりどんどん消費してしまうことは疑いようがないでしょう。
また、その資金を元手に起業する人や自分や子供に投資をする人、
マイホーム購入に踏み切る人などもたくさんいるでしょう。
②ドイツなどでは日本より先に生産年齢人口の減少が生じているがデフレになっていないから、「生産年齢人口の減少=デフレ」というのは誤りだ。
しかしこれは、国によってその前提条件が大きく異なる。
例えばドイツの社会保障給付は日本より大きい。
その分、高齢者が安心して消費できる土壌がある。
翻って日本。
上述のように、現在においても年金では家計消費を賄えていない。
なによりも「貯蓄と保険」。
将来に備えることが大好きな日本人の特異な国民性を度外視した主張ではないかと思います。
まとめ
本書の一部のご紹介とその一部の検証しか今回は書きませんでした。
経済関連の書籍や記事は昔から好きなのでよく読むのですが、
この藻谷氏の「デフレの正体」は、難しい経済学の話ではなく、
一般的な事実のデータを多用し、それをもとに氏が検証や解決策の提言をしており
私のような専門家でない者でも読みやすく理解しやすかったという印象でした。
「社会保障に関する国民不安という大きな障害」
これについてはちゃんとした試算をしたうえで安心できる制度設計運用を
官民で力を合わせて行わなければならないと思います。
そしてシニアマーケットの開拓は、日本企業における今後の最重要課題であることは
だれも疑うことのないことではないでしょか。
そして、それはかつてのような消費財の大量生産ではなく、
高齢者の個別の嗜好や心理を探り、消費者と提供者の距離が近い、
接近戦で局地戦のモノやサービではないといけないのではないかと考えます。
そしてその役割を担うのは、やはり藻谷氏が言うように小ロットでも採算が取れ、
地域に密着した中小企業の皆様方ではないかと私は思うのです。
次回もこのカテゴリーでは、経営についてご紹介していきます。乞うご期待!